【超おすすめ】からくりサーカス レビュー 〜歯車と因縁が織り成す、唯一無二のサーカスショー〜
こんにちは、いさおです。
先日、2か月かけて藤田和日郎先生の『からくりサーカス』を読み終えたのですが、もう、中盤から震えっぱなしでした。
あまりにもおもしろすぎる。アツい王道展開、伏線回収、感動。物語というものが持てるおもしろさの全てを持っているかのような、本当に素晴らしい作品でした。
2018年10月からアニメ化して話題になっている本作、原作であるマンガは1997年から2006年の連載と少し古い作品であり、単行本は全部で43冊。
原作を手に取るのは、少しハードルの高い作品です。
それでも、何とか読んでほしい。
買うのが厳しいならとりあえずTSUT○YAで借りるのでもいいでしょう。多分結局買い揃えたくなります。
そのために、何とか魅力が伝えたい。そう考えてのレビュー記事です。
微ネタバレありですが、本作を読む楽しみを損なわせない程度にとどめております。
ぜひ、お読みいただければ!!
1.あらすじ
小学5年生の才賀勝は、父である大手家電メーカー"サイガ"社長・才賀貞義を亡くした。貞義が遺したのは、「勝が180億円の遺産を一人で相続する」という遺言。これによって異母兄弟から命を狙われることになった勝は、子供の身ながら逃亡を図る。
そこで出会うは、異母兄弟が差し向けた、巨大な操り人形を使う殺し屋たち、同じく操り人形を使い、勝の保護を絶対とする謎の女「しろがね」、そして、その人形使い同士の争いに巻き込まれ、成り行きで勝を守ることになった心やさしき男、加藤鳴海。
この戦いで勝は大切なものを手にし、そして大切なものを喪うことになる。しかしそれは、200年前から続く、激しい愛憎劇が見せるさざ波に過ぎなかったのである・・・
2.この物語の魅力
(1) 情報開示の巧みさ
上記あらすじのとおりこの作品は、200年間続く激しい争いの末に起こった、一つの「結果」の提示から始まります。勝が相続した遺産を巡る人形使い同士の戦いは、長い年月をかけて、様々な人の思いが積み重なって生まれた因縁が生んだ、一つの小規模な事件に過ぎないのです。
ここで言っておきたいのは、この遺産を巡る戦いは、それだけで非常に見応えのある、優れたエンターテイメントであることです。この戦いは1巻〜3巻に渡って描かれ、ただの泣き虫な子供だった勝の覚醒、そして大切なものとの別れという、一まとまりのドラマが描かれます。
しかし、このドラマには語られない部分が多くあります。
なぜ、勝が180億円もの遺産を一人で相続させられたのか?
しろがねとは何者なのか?なぜ初めて会ったはずの勝の保護に執着するのか?
なぜ異母兄弟が差し向けた殺し屋も、しろがねも「人形使い」だったのか?
そもそも「人形使い」とは何なのか?
これらの謎を解き明かすカギこそが200年前からの因縁であり、その内容が、4巻以降で徐々に明らかになっていくのです。まず結果を見せ、後にその原因を提示する構成です。
具体的には、本作は以下6編に整理できます。
① 勝編(プロローグ)
180億円の遺産を巡る争い
② サーカス編 〜仲町サーカス〜
①の続き。戦いを終えた勝が、多くの仲間と出会っていくお話。
③ からくり編
①とは異なる舞台と登場人物たちが織り成す、人間と自動人形の戦いのお話。
(全ての始まりとなる200年前の事件の開示)
④ サーカス編 〜黒賀村〜
②の続き。仲間と別れた勝が、自らに潜む衝撃の事実に向き合うお話。
(100年前の大事件の開示)
⑤ からくりサーカス編
③、④の話が合流する。
過去の因縁と向き合った勝が、人間と自動人形の戦いに身を投じていくお話。
⑥ 機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)編
最終章。
いきなりよくわからぬまま結果だけを見せられた後に、時系列順に次々と明らかになっていく衝撃の事実。その情報開示の巧みさに、あなたの脳はきっと悦びの叫びをあげるはずです。
(2) 因縁に潜む愛憎と、それを引き受ける勝、しろがね、鳴海の業の深さ
上記のとおり、本作が描く物語では、200年前、100年前においてそれぞれ重要な事件が発生しています。
これらの事件はその後100年単位で尾を引き、そして様々な人の運命を狂わせた、深刻なものです。しかし、例えば世界征服のような邪悪な企みがきっかけになったとか、大災害が起きたとか、宇宙人が来たとか、そういう非日常なものではありません。
それらの事件は元をたどれば、人の感情が織り成す、ごくごくありふれたすれ違いなのです。だからこそ、後々に深刻な影響を与える大事件に発展したことが、非常に悲しいドラマとなっています。それぞれ、強く心を動かされる、名エピソードです。
また、この200年続く因縁の原因が人の感情であるからこそ、主人公である勝、しろがね、鳴海の3人は、多くの人から強い愛情・憎悪を向けられることとなり、またはそれらを多くの対象に向ける存在となっていきます。
そして、勝、しろがね、鳴海の3人は、自らに向けられる、または自らが向ける愛情・憎悪に翻弄され、自らも、そしてもちろん読者も想像だにしなかった方向へ、歩みを進めていくのです。
(3) 人とからくりを分かつものは何か?
ここまで述べてきたとおり、「過去の因縁」というのが本作のキーワードであるわけですが、この「過去の因縁」は、本作のテーマにも直結する概念になっています。
上で少し言及しましたが、本作は主に「人間vs自動人形」の戦いを描くものです。
人間と同じように自ら考え、自ら動く機能を持つ「自動人形」たちは、ある目的で「人間」になりたいと願い、その実現のためにある悪行をはたらきます。そしてそれを阻止すべく、操り人形使いの人間たちが、戦いに身を投じていくのです。
そこで問われるのは、「からくり」と「人間」を分かつ、人間の定義。
自動人形すなわち「からくり」が「人間」になるには、どのような性質を獲得すれば良いのか。人間を人間たらしめているものは何なのか。その命題が、「人間vs自動人形」の戦いの中で模索されていきます。
一方で、「人間は1種のからくりである」という逆の命題が、作中で同時に提示されていきます。すなわち、人間はからくりと同じく、ある機構に従って操られて動く人形ではないのか、と。
その機構とは何か?
それは、「過去の因縁」です。
事実、上記のとおり、勝は過去の200年間で積み重なった因縁の末に、小学5年生にして命を狙われることとなります。しろがねが勝を守る背景も、しろがねの個人的な感情などではなく、この200年間の因縁があってこそなのです。
そう、この『からくりサーカス』という作品は、「過去の因縁」という操り糸で操られて踊る、悲しきからくりたちが魅せるサーカスショーなのです。
「からくりと人間を分かつ、人間の定義とは何か」
「人間は1種のからくりではないのか」
この二つの命題の果てに、勝たちはどのような答えを掴み取るのか。
その答えは、あなた自身の目で確かめてください。
3 まとめ
以上、少し内容にも立ち入った、『からくりサーカス』のレビューでした!
いかがでしょう、少し読みたくなりましたか?読みたくなったら、今すぐ本屋へ行きましょう!
笑いあり、涙あり、手に汗握る唯一無二のサーカスショーが、あなたを待っています!!
お読みいただきありがとうございました!
(終わり)